2024年4月1日 | 売買・仲介事例
今回は、松江市の私道の売却をご依頼いただいた事例をもとに、今後そう遠くないうちに相続をする可能性がある人に、こういうケースもあるんだと知っておいていただくと良いと思ったので、記事を作成しました。
法律の改正により、知らないと罰則が課されてしまう可能性がありますので、最後まで読んで参考にしてください。
売却のご依頼をいただいたお客様は、私道を相続していました。しかし、その事実をご本人は気付いていませんでした。その理由は、非課税の私道であったため、固定資産税の納税通知書が来ていなかったからです。被相続人から所有不動産に私道が含まれていることを直接聞いていなければ、納税通知書が来ないと気付くのは難しいですよね。
「非課税の私道」って書いていたけど、そもそも課税の私道もあるの?と思った方もいるかもしれません。そうなんです、私道には課税と非課税があります。そういうこともあって、私道は法律上の扱いが複雑な土地と言われているのです。
ということで、少しだけ私道について説明します。
まず道路には、公道と私道があります。公道は国や地方公共団体が所有する道路で、私道は個人が所有する道路になります。これは、イメージどおりと思います。
個人が所有する不動産は、一般的には固定資産税の課税対象になります。しかし、私道の場合は個人が所有する不動産ですが課税対象ではない、非課税になることがあるのです。なぜ、非課税になることがあるのか気になりますよね?
先ほど道路には、公道と私道があると書きました。公道は、国や地方公共団体が所有するため人的非課税になります。人的非課税というのは、所有者の性質上課税されるべきではない不動産に適用されます。公道が非課税なのは、当たり前でしょ、という感じだと思います。
ということは、私道だけど公道みたいな性質があるなら非課税になるのかな?と思った人が多いのではないでしょうか。
その通りです。これを、「公共の用に供する」と言います。私道でも、公共の用に供する道路であれば非課税になります。個人が所有する土地である私道であっても、利用するのに何も制約がなく、不特定多数の人が通行できる道路であれば、公共性があると考えられるから公道と同じように考えていいでしょ、ということです。
具体的にはどんな道路か分かるとなお良いですよね。
たとえば、私道の両端が公道に接していて、公道から公道に通り抜けられる私道(通り抜け私道)は非課税になります。しかし、行き止まりで通り抜けられず、その先に住んでいる特定の人しか通行しない私道であれば課税になります。イメージできましたか?
ただでさえ、課税と非課税がある私道でややこしいのに、松江市で私道売却されたお客様は、さらに状況が複雑になることがありました。それは、、、
被相続人が家督相続した私道で土地の権利証がなかったのです。物理的に土地の権利証があれば、所有する土地に私道があることが分かりますが、権利証がなかったのです。土地の権利証がないって、被相続人が紛失してしまったということ?と思うかもしれませんが、おそらくそうではありません(被相続人と生前にお話ししているわけではないので事実は分かりません)。
家督相続だと権利証がなくても相続できるため、相続した時点で権利証がなかった可能性が高いと思います。え?そういうものなの?ってちょっと驚いたかもしれません。今では、家督相続はテレビの時代劇くらいでしか耳にしないですから、どういうものか分からないですよね。
この記事を読んでいる方ご自身が家督相続することはありませんが、親御様が家督相続で相続している可能性は否定できません。そのため、ざっくりで良いので家督相続はどういうものか?自分が相続するときにどんな影響があるか?を知っておくと良いと思います。
家督相続とは、1898年(明治31年)7月16日から1947年(昭和22年)5月2日まで施行されていた、旧民法による遺産相続の方法です。1947年までの方法なので、今では家督相続という言葉自体聞くことがほぼないのです。
家督相続とはどんな遺産相続方法なのかというと、「被相続人である戸主(家長)が亡くなった場合、長男がひとりですべての財産・権利を相続する」というものになります。現代では考えられませんが、昔は一家の長男は戸主の地位を継ぐものとして別格の存在だったのです。
家督相続は、被相続人の財産・権利を包括的に相続するので、個々の財産について権利証がなくても相続できるのです。現在の遺産相続制度では考えられない、なかなかすごい制度ですよね。
現在の遺産相続制度では権利証がないと第三者に対して所有権を証明できなくなるので、権利証がないのは問題になります。また、長男ひとりにすべての財産・権利を相続するためには、他の法定相続人全員の同意が必要になります。本当に全然違います。
現在の制度との違いはあるにせよ、家督相続制度のもとでは権利証がなくても相続できるということで、被相続人が家督相続で所有している建物や土地があれば権利証がない可能性があるということです。
非課税の私道で納税通知書が来ない、家督相続で権利証がない、そういう状況でどうやって私道を所有していることが分かったんだろう?と疑問が湧いてきた方もいるのではないでしょうか。
被相続人の所有を知っていた横浜市内の不動産の相続登記をするときに、司法書士さんが名寄帳を取得して、非課税の私道を所有していることが判明しました。また、名寄帳というよく分からない用語が出てきた・・・と思った方もいるかもしれませんが、難しいものではないので安心してください。
名寄せは、名前で寄せる、つまり同一の名前ごとに情報を管理するという意味です。名寄帳は、固定資産税を課税するために市区町村が所有者別に一覧にまとめたものになります。自治体によっては名寄帳ではなく、固定資産課税台帳や土地家屋課税台帳といった呼び方をしているところもありますが、名称は気にしなくて良いです。
この名寄帳、納税通知書が来ないことで所有している不動産に気づかない、という問題を解決してくれるものになります。なんと非課税不動産も一覧に含まれます。他に、未登記建物や共有不動産も全て記載されるため、被相続人が所有している不動産を網羅的に把握できます。
ということで、非課税の私道であっても名寄帳に載っているので、横浜市の不動産以外に実家があった松江市の方にも申請して名寄帳を入手することで把握ができたということです。
ただし、名寄帳を取得できない自治体もあるので注意です。その場合は、専門家である司法書士さんに相談しましょう。
こうして無事に非課税の私道を相続で所有していることが分かったので、当社から司法書士さんを紹介して相続した私道の相続登記をすることになりました。相続登記しないと、罰則を科される可能性があるので要注意です。
2024年4月1日から相続登記義務化の制度が開始されました。
今までは不動産を相続しても登記は義務ではありませんでした。手続きをしないで放置していても罰則がなかったこともあり、登記変更をしない人が多くいました。しかし、いよいよ義務化が始まりましたので、相続などで不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記しなければいけません。
注意しなければいけないのは、2024年4月1日施行ですが、それ以前に発生した相続にもさかのぼって適用されるので、過去に相続した不動産で登記変更していない不動産も登記しなければいけないということです。
正当な理由なく相続登記をしないと10万円以下の過料が科されるので、ちゃんと登記しましょう。
司法書士さんによる不動産の登記が無事に完了したので、当社で私道の売却の仲介をさせていただきました。
今回は、非課税で納税通知書がこない、家督相続で権利証もないという状況で、名寄帳で所有が分かった私道を売却するという特殊な事例でした。
これは私のイメージですが、今回のような私道は古い町並みや城下町に多い気がしています。
古い町並みには、江戸時代や明治時代は現在のように整然とした区画整理ができず、土地を分割する際に私道が多く作られたり、防火対策で幅員の広い私道が多く作られたと言われています。城下町も同様に防火対策で幅員の広い私道が多く作られ、武家屋敷や町屋が密集しているため私道が多く作られたと言われています。
もし実家が古くからある町だったり城下町の場合は、私道の所有の有無を確認すると良いかもしれません。
この事例を読むことで、知らないで相続した不動産で罰則を科されるのを避けていただければと思います。相続の際にこの事例を思い出してもらえると嬉しいです。
(松江市ということで出張の際に出雲大社を参拝しました。当社は横浜市の会社ですが全国対応しています。)
・遠方にある実家を相続して売却する場合の不動産会社の選び方
・墓じまいの段取り含めて丸ごと担当した鹿児島県の不動産売却の仲介
・相続した実家で空き家問題!?不動産視点で知っておくべきこと